ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

「ブギー・ナイト」「マグノリア」「パンチ・ドランク・ラブ」・・・10年追っかけてますポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)。
今までのPTAの映画の印象。

  • 暑苦しいほどエモーショナル。
  • とにかく「fuck!」と言う回数が多い。
  • ダメ人間がキレる。
    • チビでデブのゲイが自分の人生のうまく行かなさにキレる。
    • 祖母、母、4人の姉に首根っこ押さえられて育った弟がキレる。
    • 父親にレイプされた娘が「どの口がほざくかー!」とキレる。

ダメな人はダメなままでもいいじゃないか。そんな人が時にテンパってキレてもそれはそれで素晴らしいじゃないか。
ただし本当にどうしようもない人間は除く(レイプした父親とかは映画中で徹底的に叩きのめす!)
万人の万人によるエモーショナルのぶつかり合い、そんな群像劇を描いてきたPTA。

今作では2人に的をしぼった。衝動性に振り回される金の亡者vsイっちゃってる福音派牧師。
ゴジラ対キングキドラみたいで面白かったー! 2時間半全く飽きませんでした。


さて本作の主人公は
「ダメなままでもいいじゃないか、不器用でキレやすい人間、それはそれで肯定しよう」の方なのか、
「本当にどうしようもない人格破綻者は生き地獄を味わってもらいます」コースなのか。

 私は後者ではないと思う。

 「人間嫌い」と言いながら、息子や弟に対してはうち解けようとしている。他者と上手くやっていきたい気持ちはある。でも衝動性が止めれない。結果失敗してしまう。騙されたり、虚仮にされたり、別れを告げられたりしたときに衝動性を押さえられない。

 物事の道理は頭でしっかり理解できているから、落ち着きを取り戻して冷静に考え出すと自己嫌悪に陥る。その瞬間は100%キレつつも、後から冷静に考えたときにめっちゃ落ち込んでるタイプ

 自己肯定感が低いがゆえに虚勢を張る。人間関係で達成がないからこそ、金儲けにこだわる。目で見える成果を欲しがる、それも自信がないゆえ。
 きっと彼は、自分の人生がどんどん悪い方へ転がっていくように見えていたんだろう。息子の母親と上手くいかなかった。その前は親父と兼ね合いが悪かった。その前は・・・・・・きっと子どもの頃から、他者と上手く兼ね合えない人生を送り続けてきた。癇癪持ちの自分をもどかしく思い、それでも性質が変えられるわけでもなく、自信の無さから対人関係以外での自己証明(富や力)をし続けて、浮き続けた人生・・・。


 今作は、舞台設定がしっかりして重厚な作りだし、登場人物もまとまったし、上映時間も短くなったし、fuckの回数も減って、すっかり巨匠らしくなった。しかし、エモーショナルの過剰さは相変わらずで嬉しい。本当に大切な部分を失わずにここまできた監督に拍手を。ってまだ38歳なんだよねこの人。恐れ入る。


 ラストシーン残念説がわからない。PTAらしいじゃん。ブラボーミルクシェイク。と思ってしまう私はすっかりPTA節中毒なのかもしれない。